46.必殺 仲裁人

 「先生! 相談があるんですが・・・」

 あらら またかよ! こんな時ろくな相談は無い!

 「実は私の親戚の者ですが・・・」と弟子が A夫婦を連れて来た。 話は・・・

 Aさんの息子B君(大学卒業 春より教員に内定)が バイクを運転中出会いがしらに ひとりのおばちゃんと

 接触事故を起こしてしまったとか! 事故の状況文章ではよく表現できないが・・・

 進行方向 車が渋滞 その左横をバイクで直進中 急に車の陰から おばちゃんが出てきた。

 おばちゃんは道路反対側でバスを降りて 向こう側が車が居ないので 道路を横断して来たのだ。

 急なおばちゃんの 飛び出しに B君はハンドル取られ 接触転倒 おばちゃんも!

 「あ! おばちゃん大丈夫? すみませ~~ん」

 「いいや 私が悪かったとよ 急に出てきたから・・・」

 お互いそんな調子だったので B君は 何かの時の連絡先に自分の電話番号と名前を書いて おばちゃんに渡したとか!

 問題は それからや!  ある日 Aさん宅へ ある右翼団体会長の名前で電話が掛かってきて・・・

 (事故を起こした おばちゃんが入院してるとのこと・・・治療費、慰謝料のことで話があるとのこと。)

 すゎ~~ こりゃ大変な事が起こった! Aさん宅は大騒ぎ・・・で 我が空手の弟子に相談と云う事になったらしい! 

 弟子も自分では解決できないので 俺いらに 丸投げ・・・と

 右翼団体 〇〇会 知らない訳ではないが 政治右翼と云うか任侠右翼に近い存在 

 会長とは 以前 名刺を交換したぐらい・・・だが 連絡をとることに!

 「会長ね! 少林寺会館の長谷場ですが・・」

 「あ! 先生ですか? また珍しいですなぁ 何か?」

 「うん ちょっと話が・・・・!」  「話とは?」

 「交通事故のことやけど Aさん 知っちょるやろ あの人が  俺の知り合いでさぁ で その事で

  あんたに 話があるんだわ!」

 「あぁ  あの話ですか! 実は あの事故ったのは わしの友達の 母親で バイクで跳ね飛ばされて

 入院したんですわ! で 加害者の方からは 一言の挨拶も無いのですわ! 筋の通らん話でしょ!

 で 頼まれて腰を上げた訳ですわ!」

 ( 事が 跳ね飛ばされた 入院・・・という話に!)

 「うん! 大体の話は聞いたよ。入院された話は聞いてないけど・・・でさ 会長 そのことで少し時間作ってくれんな!」

 「アハ 先生とこに泣きが入ったですかぁ 先生の知り合い 先生が絡んでくると こりゃまた厄介な話ですなぁ

 分りました 近日中に 時間作りましょ また 連絡入れますわ!」・・・となった。

 
 それから3日後、 Aさん夫婦と息子さんが 突然 我が家へ

 「先生! この度はありがとうございました。 お陰様で解決がつきまして! 本日はそのお礼で参りました。」

 「えっ?」 何がどうしたのか? 俺いらには さっぱり分らない?

 
 話では一昨日 会長から電話がかかり 呼び出され・・・

 「長谷場先生の知り合いだったんですか じゃったらケンカする訳にもイカンですなぁ 

 いやね あんたのところから 見舞いもない 連絡もないちゅうことで こっち側としては カチンと

 きていた訳ですわ! この前の話では 息子さんも春から教員へ成られるとかで こんなヤツが教員へ・・・

 と 教育委員会に乗り込もうと思っていましてねぇ まぁ でも わざわざ長谷場先生からも電話があり 

 穏便に頼むちゅことで 先生の顔も立てにゃイカンし 本来なら治療費 慰謝料など等で 4~500万要求するところですが・・・

 100万で丸く納めましょ これで示談して お互いもう何も無しにしましょ」・・・となったとのこと。

 「教育委員会で問題になったら教員には成れないし 4~500万円が100万円で終ればということで 

 ここは渡りに船 示談にしました。先生 この度は本当にありがとうございました。」・・・と

 あちゃ~ もうすでに当事者同士で解決した・・・ら 俺いらのでる幕はない。 

 俺いらは2~30万ぐらいで話付け様と思っていたが・・・こりゃ~ 向こうが役者は一枚上だった。

 頼んだら 任せてくれればいいものを! まぁ それでも役割は果たせたのかな・・・と!

 
 「先生 相談があるんですが!」 

 あちゃ~ またかよ! こんなんばっかし! 弟子が一人の青年 C君を連れてきた。

 「これは 弟の息子ですが 実は交通事故を起こしまして・・・その事故の相手が

 〇〇会のヤクザふたりで  交差点での出会いがしら事故なのですが どちらかと云うと 

 こちらがぶっつけらた方で でも、相手はふたりとも病院へ入院してしまったんですよ!

 まぁ それは仕方がないんですが 毎日電話がかかってきまして・・・電話の出るのが遅ければ遅いで・・・

 電話にでると (見舞いぐらい来んかぁ! こっちは入院しとっとどぉ! お前も同じ目に合わしちゃろかぁ!)・・・と 

 見舞いには行っているんですよ! 行けば行ったで 説教がず~と続くし 怖くて話ができなくて 

 返事をしないと (こりゃ 返事ぐらいせんか!)と。 電話も 朝からかかってくるもんで 家族は

 皆 電話に イローゼになる様な状態で・・・朝ご飯も おちおち食べられないんですよ」

 「警察には?」 民事には介入できないと・・・ 

 相手の電話番号を聞き (会いたい!)相手に連絡すると

 「どこの どなたさんか知れませんが 関係のない人は黙っててくれんですか! 自分達の事は

 自分達で始末付けますんで!」

 こりゃ一筋縄ではイカン! 遠親戚に警察関係者がいて 相談することに!・・・と云うことがいい

 「今の段階ではどうにも成らんわ! 相手が危害を加えたちゅうんなら 逮捕もできるが・・・」

 「しかし 相手は組の名前も出しているんですよ!」

 「う~~ん 難しいとこやなぁ~」・・・と話にならない!

 「警察の表示に 暴力を見たら、聞いたら警察へ!・・と書いてあるじゃないですか? あれは何んですか?」

 と嫌味と皮肉を云って 帰った。  このままで終る訳にはいかない!

極道と云われるヤクザにも 男気のあるヤツがいる。 〇〇組 若頭Aだ。

 付き合い? 詳しいことは云えないが・・・連絡をとる。 喫茶店で待ち合わせ。

 「〇〇会にそんなヤツ等が居るかい?」

 「居りますねぇ そいつ等が何か?」

 「・・・・・・・・・と云う訳だ。 何とかならんもんか?」

 「どうすれば いいんですか?」

 「うん! 嫌がらせを止めさせて 欲しいんだわ!」

 「解りました 止メましょ。 しかしですね 先生 保険屋の方は止められませんよ

 これはヤツ等の しのぎですからねぇ」 「それは 関係ないわ!」 

 一件落着! 警察でも解決出来なかったことが!

 電話がピタリと来なくなった。 

 後で聞いた話だが 後日ヤツ等からC君宅に電話がきて

 「お前 〇〇組のAさんの知り合いだったって? それなら それを早よ云わんかい!

 もう お前んとこには 何も云わんわい すまんかったのう!」・・・と。

 蛇の道は蛇 解決の仕方にも いろいろな方法がある。 

 その時、B君に謝礼として 5万円用意してもらい Aに渡そうとしたが受取らなかった。

 「先生 そんなに気 使わんでもいいですよ。 この金は受取れんですが 

 自分の女がやっている店があるんで そこに飲みに行って使ってください」・・・と。

 
 彼とヤクザについて話したことがあるが・・・

 「ヤクザ・・・ですかぁ 一口で云うたら 何んでも有りの世界でしょうか! 先生が云う義理や人情が

 どうのこうの云うんは 映画や漫画の世界での話ですよ! ヤクザもピンからキリまで いろいろです。

 気の弱いヤツでも組に入れば 強くなりますよ 組が守ってくれますからね 

 仲間意識ちゅうか 群衆真理ちゅうやつでしょうか!」

 詰めた指が彼の人生を物語っていたような! 

 ヤクザ! 馬鹿で成れず 利口で成れず 中途半端じゃ 尚成れず と云う。 人生いろいろや!

 
 懇意にしている ある会社の社長から
 
 「先生! ちょっと相談が!」 ん! またまた 怪しい電話が・・・話を聞ことに。

 「実は私が今 面倒見ている女の 亭主が 近いうちに刑務所から出てくるんですよ!」・・・と

 その女性とは? え~~っ 奥さんとばかり 思っていた 女性。

 話を聞くと 5年前知合い同棲。 今では  遊びに行くと奥様のように お茶などご馳走になる。

 てっきり 社長の奥様とばかり 思っていた。

 ところが 奥様は結婚していて その亭主がヤクザ者で服役中!・・・近々 出所してくることに!

 で 出所してきたら 多分 ゴタゴタに! (どうしたら?・・・)ちゅう事になったらしい!

 亭主は 業界ではかなり名の売れた男。 う~~ん難しい相談だが・・・・

 「社長 私に10万円 預けてください」・・・と。

 
 男が出所した 

 案の定 社長に電話が入った・・・で 何の話か解らないので 俺いらに会ってみてくれ・・・と。 

 相手の連絡先に電話をいれて 会うことになった。

 次の日 約束の時間 我が家の前に 定番のムスタングが止まる。 ピンポ~~ン~

 「××の〇〇と 云う者ですが・・・」 言葉は丁寧で 中々の貫禄。

 「どうぞ!」と家の中に案内。 お互いの挨拶の後・・・掛け合いが始まる

 「長谷場さん ワシは何も ごちゃごちゃするために来たんじゃないですわ! 自分がム所に

 入っている間に 女房を寝取られたとあっちゃ 黙ってる訳にもイカンでしょうが! ワシも組織の

 人間ですから このまま引っ込んでいたら 顔がつぶれますけんねぇ いい笑いモンですよ」

 「はい お気持は よ~く解りますよ  でもねぇ 〇〇さん! 

 あの社長は 奥さんと △ちゃん(〇〇の子供)の 面倒を よ~く見てこられましたよ

 △ちゃんの 学校の学費や小遣いなど・・・ 私も てっきり親子かと思ったくらいに! 

 △ちゃんが 犬を欲しがったら 直ぐ手配して 犬を飼ってやったり もの凄く可愛いがっていましたからねぇ

 むしろ 〇〇さんは 感謝せんとイカンのでは?・・・と私は思うのですが・・・それに奥さんですが

 責められんでしょ 貴方は刑務所に入り 奥さんは△ちゃんを抱えて生活もせにゃイカンかったやろうし・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「そでれも 社長を攻めますか?」 

 「いや ワシも訳の分らん男じゃねぇ 感謝はしとるよ」 

 要は出所したばかりで金が無い・・・・と云うことにもなるのだが 男として それは口に出来ない!

 「〇〇さん! じゃ こうしましょ 実は これは私が勝手に決めたことですが・・・

 ここに10万あります これを何も云わずに受け取ってください 

 そして これで 何もかも納めてもらえんでしょうか?」

 「・・・・・・・・・・」

 「気に入らんと思われるかも知れませんが・・・気持ちよく納めていただきましたら もうちょい

 考えてもいいですよ 只ね これは私だけの判断ですから・・・もし 〇〇さんが これ以上  無理 難題

 ふっかけることになれば 私は降ります。・・・多分 社長は警察に駆け込みますよ! その覚悟でした」

 「・・・・・・・・・・分りました ワシも××の〇〇と云われた男や ごちゃ云うつもりはないが

 女房寝取られて 10万円で引き下がったと云われたんじゃ 顔が立たん 解りますか? 社長に会わせて

 もらえんかな? 直に頭下げて詫びて貰わんと このままじゃ 引っ込みがつかん!」

 「解りました 私も中に入った以上 中途半端で終らせる訳にもいきません・・・が 〇〇さんも

 私に全て任せていただきますか?」・・・と成り 後日3人で食事会となった。

 円満解決!

 俺いらは他人から物事を頼まれると断れない性格である。 他人は頼む時には必死に神様みたいに頼むが 

 咽元過ぎれば何とやら・・・で 事が終わると知らん顔の者が多い。

 お礼は求めないが 時に依っては こっちも命をかけなければならないのだ。それが分っていない。 

 最近では、他人ごとには あまり係わり合いにならないようにした・・・・

 それがいい それがいい