45.番 長

夕方 稽古をしていると・・・

「先~生! うちの子が・・・一美がぁ~」・・・と 父親が飛び込んできた。

「どうしたんですか? 何 何があったの?」

「一美が 連れていかれたんですわぁ」 「え~~ッ 何処へ ???」

父親の顔から 判断して ただ事ではないことが 起こったことは 間違いない!

「稽古頼むぞ!」と 黒帯に頼んで 父親の車に。

この父には 一美(中3) 信二(中1)の男兄弟がいる

兄一美は おとなしい少年だが 弟信二はかなりの突っ張り少年

ふたりは小学生の頃から道場に通っている。

車に乗り込むと 父親はUターンする時間ももどかしく

すごい剣幕で30Mをバックで走らせた。 かなり慌てている。

何処に向けて走っているのか分からないが 途中まで行くと 

前の方で手を振っている者が!  弟の信二だ。 

信二は (あっち! あっち!)・・・と指をさす。

父はハンドルを切る・・・しばらく進むと人だかりが・・・そこは空き地になっている。

と・・・その中央で 2人の少年が 殺気だって睨みあっていた。

私は2人の処へ駆け寄り 「お前達 何しちょっとか?」と

「・・・・・・・・・・」2人は何も云わない 只 興奮して睨みあっている。

廻りに20人ぐらいのヤジ馬(皆中高生の悪ガキ達) 多分どちらか いや相手の仲間達。

「お前らは何んかぁ? おお~っ!」と俺いらが怒鳴ると 皆パ~ッと 散っていった。

そこへ 今度はパトカーが・・・ふたりの警察官が降りてきた。

多分、異様な空き地の騒動に 近くの住民が警察に通報したのだろう!

「何かあったんですか?」警官が聞く。

私は「ちょっと待って下さい! 責任は私が取りますから・・・」と ストップをかけた。

「おい 一美 お前等 ここで何しちょっとか?」「・・・・・・」

相手に「おい あんた名前は?」

「俺は億中も三好じゃ!」 「分った 三好君よ あんた この一美と何しようとしているの?」

「勝負や!」 「一美 お前もか?」 「・・・・・」

「三好君よ どうしてもやるんか?」 「やる・・・」

「解った! そしたら俺が見届けしちゃる 気が済むまでやれ!」

「・・・・・」「・・・・」ふたりは睨みあったまま動かない。

と・・・それまで じ~と見ていた 弟の信二が

「兄ちゃん 先生がやれっと! 兄ちゃんがせんのなら 俺がやっちゃろうか?」と とんでもない一言を 

中学1年でありながら 兄の変わりに 俺がやっちゃろうか!・・・と前に

「信二! お前は何云うちょっとか! あっち行っとけ!」と一括したら スゴスゴと下がった。

ふたりは 相変らず 肩で息しながら 睨み合い! その時俺いらが

「お前ら いつまでそげんしちょっとか ケンカは早く喰らわした方が勝ちど・・・」と

云うや否や 私の声も終らないうちに ふたりは一瞬にして ぶつかった!

バシッ バキッ! ボク ボクッ!

まぁ 見たら土佐犬のケンカ・・・か・・・軍鶏のケンカ・・・か ものの何秒

「負けた! 負けた! 参った!」と三好が叫んだ・・・が 興奮している一美にその声が聞こえる筈がない!

三好の上に かぶさり殴りかかっている。 私は すかさず「止めろ!一美!」 上着に手をかけ引き放す。

引き離された 一美 眼は血走り肩で息しながら まだ飛び掛かろうとしている。

一方三好は うずくまり 口篭りながら「参ったぁ! 参ったぁ 俺の負けやぁ!」・・と

見ると 胸元は鼻血?唇の裂傷?の血で白いワイシャツが真っ赤に染まっていた・・・

「負けた! おれの負けや 吾 やっぱ 空手やっちょるだけ あるわい!」と捨てセリフを!

「三好君よ ケンカは勝っても 負けてもつまらん もう二度とこんなことするな!」・・・と。

 後日談、一美の方は 右手 薬指 小指が骨折していた。

我々の知らない隠れたところでのイジメ問題 突っ張り少年達 

仲間との群集心理で弱者を虐める悪ガキ 昔も今もいる。

空手をケンカの道具に使っちゃいけない・・・が・・・こっちの都合に関係なく仕掛けてくるバカがいる。

いざと云う時のためにも 自分を鍛えておこうか! 何があってもいいように!

それがいい それがいい